2008年7月1日火曜日

朝日新聞七月一日<アラーキー、母子ヌード激写 「命の尊さ考えて」 熊本>

写真家の荒木経惟(のぶよし)さん(68)が熊本市の市現代美術館で、公募した母親と赤ちゃんをモデルにヌード撮影をした。30組の定員を超える県内外の40組が参加した。母子の姿を通じて命の尊さを考える企画。「今ならヌードも神聖」などと母親たち。同美術館で11月〜09年2月に開く「荒木経惟展」で展示する。(柴田菜々子)

 撮影は6月28、29の2日間、非公開であった。「よし、きた!」「お母さんきれい!」。赤ん坊を抱いた母親が、白で統一されたスタジオの中央の台に乗ると、荒木さんは声をかけながらシャッターを切る。泣き出す赤ちゃんをあやしながら、1組5分ほどで36枚フィルムを3本ずつ使い切っていく。

 荒木さんは02年から「日本人ノ顔」プロジェクトと題し、各地で一般の人をモデルに撮影している。「いろんな人と出会い、恋人や家族のつながりがいいと思った。お母さんと赤ちゃんの関係は特に濃厚」。「生」のなかの「死のにおい」と永遠性を出すためモノクロで撮るという。

 待合室で参加者に話を聞いた。生後1カ月の長男碧(あお)君と参加した福岡県久留米市の主婦湯浅忍さん(32)は「荒木さんの切なさのある作品が好き。出産で裸への恥ずかしさが減ったかも」という。

 熊本市の自営業松尾邦香さん(34)は1歳4カ月の長女百桃(もも)ちゃんと参加。「撮られる瞬間、妊娠から出産までの記憶が次々とよみがえり、産んだ意味を感じた」と撮影を振り返る。夫哲也さん(51)も「子どもとの濃い思い出を残したかった」。5カ月の次女と参加した熊本市の主婦(27)は「授乳中の今なら、ヌードも神聖なものになると思った。独身のときには考えられないこと」と隣の夫(31)と口をそろえた。

 荒木さんは撮影前の記者会見では「これまでは女性の『性』を撮ってきたが、最近はいろんな人の顔を撮り、人間の『生』のほうに流れが来ている」と言っていた。撮影後は、汗をふきながら「今回はお母さんの女性の部分も撮れた。子どもがいた方が『性』を感じる。性と生はつながっているんだな」と語った。


公募    こうぼ     public appeal
撮影    さつえい    photography
定員    ていいん    personnel (fixed no.)
尊い    たっとい    precious, valuable
企画    きかく     plan, project
申請    しんせい    holy, sacred
展示    てんじ     exhibition, display
非公開   ひこうかい   private
統一    とういつ    unity, consolidation
使い切る          to use up, exhaust
各地    かくち     various places
濃厚    のうこう    density, richness
待合室   まちあいしつ  waiting room
生後    せいご     since birth, post-natal
出産    しゅっさん   childbirth, production
妊娠    にんしん    pregnancy
記憶    きおく     memory
次々    つぎつぎ    in succession
よみがえる         to be resurrected
振り返る  ふりかえる   to turn around, turn one's head
授乳    じゅにゅう   nursing (an infant)
独身    どくしん    bachelorhood, single
そろえる          to put things in order, arrange
記者会見  きしゃかいけん press conference
語る    がたる     to talk, tell, recite